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大阪地方裁判所 昭和51年(行ウ)51号 判決

原告

岩谷産業株式会社

右代表者

福間哲

右訴訟代理人

畑良武

外二名

被告

高石市長

浅野政雄

右訴訟代理人

中坊公平

外三名

主文

一  原告の請求はいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1  被告が別紙物件目録(一)記載の土地につき昭和五一年五月一日原告に対してした昭和五一年度の固定資産税及び都市計画税の各賦課処分は、いずれもこれを取消す。

2  被告が昭和五一年七月一〇日した原告の右各賦課処分に対する異議申立を棄却する旨の決定を取消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二  当事者の主張

一、請求の原因

1  原告と訴外大阪府は、昭和五〇年一月一〇日、原告の所有する別紙物件目録(一)記載の土地(以下本件土地(一)という。)と、訴外大阪府の所有する同目録(二)記載の土地(以下本件土地(二)という。)とを交換する旨の契約をした。右交換契約においては、本件各土地の所有権は右の契約日をもつて移転する旨約定されたので、同日以降、原告は本件土地(一)の所有権を失うとともに本件土地(二)の所有権を取得し、訴外大阪府は本件土地(二)の所有権を失うとともに本件土地(一)の所有権を取得した。

2  そして、本件土地(一)については、大阪法務局堺支局昭和五一年三月三〇日受付第二四四〇二号をもつて原告から訴外大阪府に対し、また、本件土地(二)については、同法務局同支局同日受付第二四四〇三号をもつて訴外大阪府から原告に対し、いずれも昭和五〇年一月一〇日付交換を原因とする各所有権移転登記がされた。

3  ところで、昭和五一年度の固定資産税及び都市計画税の賦課期日である同年一月一日においては、本件土地(二)の登記簿上の所有名義は、前述のとおり、なお訴外大阪府に存していたのであるが、訴外堺市長は原告に対し、同年五月、本件土地(二)について地方税法第三四三条第二項後段、第七〇二条第二項に基づいて昭和五一年度の固定資産税及び都市計画税の各賦課処分をしたので、原告はこれに応じて右の賦課にかかる税を納付した。

4  ところが、前記賦課期日においては、本件土地(一)の登記簿上の所有名義は、前述のとおり、なお原告に存していたので、被告は原告に対し、同年五月一日、本件土地(一)について地方税法第三四三条第二項前段、第七〇二条第二項に基づくものとして昭和五一年度の固定資産税(年額一四七四万〇一六六円)及び都市計画税(年額二一〇万五七三八円)の各賦課処分(以下本件各課税処分という。)をした。

5  そこで、原告は被告に対し、昭和五一年五月三一日、本件各課税処分は地方税法の解釈を誤つた違法のものであるとして異議申立をしたが、被告は、同年七月一〇日、右申立は理由がないとして棄却する旨の決定をした。

6  (法律上の主張)

被告の本件各課税処分は違法である。なぜならば、原告は前記1の交換契約の前は本件土地(一)の所有者であり、それ以後は本件土地(二)の所有者であつたが、同時に右各土地の所有者であつたことはないにもかかわらず、昭和五一年度の固定資産税及び都市計画税の賦課に関しては、訴外堺市長からは本件土地(二)の真実の所有者として、また、被告からは本件土地(一)の登記簿上の所有名義人として、それぞれ課税されるというのであるから、実質上二重課税を受けるのに等しく、このような結果は著しく正義に反するものであつて、地方税法がこのようなことを容認しているはずはないからである。

右のような結果になつたのは、被告が地方税法第三四三条及び第七〇二条の各第一、二項の解釈を誤つたからにほかならない。すなわち、同法第三四三条第一項は、あくまで真実の所有者に対して課税すべきであるとの原則を宣言し、同法条第二項前段は課税の便宜という見地から政策上行政庁に調査義務を免除したに過ぎないものであつて、納税義務者の間で、自己に登記簿上の所有名義はあつても所有権はない旨を立証すれば、納税義務を免れることができる旨を、同法条第二項後段は、第一項の原則をそのまま適用し、真実の所有者についての調査義務を免除しない旨をそれぞれ定めたものと解すべきである(第七〇二条についても同様である。)。

7  よつて、被告が本件土地(一)につき昭和五一年五月一日原告に対してした昭和五一年度の固定資産税及び都市計画税の各賦課処分は違法であり、また被告が同年七月一〇日原告に対してした異議申立棄却決定も右の違法を看過した点で同様に違法であるから、いずれもその取消を求める。

二、請求原因に対する認否

1  請求の原因1の事実のうち、前段は不知、後段は否認する。

2  同2の事実は認める。

3  同3の事実は不知。

4  同4、5の事実は認める。

5  同6、7の主張について争う。

被告の本件各課税処分及び異議申立に対する決定はいずれも適法にされたものであり、原告の主張は独自の見解にすぎない。

第三  証拠〈略〉

理由

一(事実関係)

請求の原因2、4、5の各事実は当事者間に争いがなく、同1、3の各事実は、〈証拠〉によつてこれを認めることができる。

二(法律上の判断)

右の事実関係に基づいて、原告の本件各課税処分取消請求の当否について検討する。

地方税法第三四三条第二項、第七〇二条第二項が、租税収入の確保、徴税費用の節減等課税上の技術的考慮から、少なくとも地方団体に対する関係においては、固定資産税及び都市計画税の各納税義務者を当該年度の初日の属する一月一日の土地登記簿等に所有者として登記又は登録されている者とし、いわゆる台帳課税主義によることとしたことは明らかであり(最高大昭三〇・三・二三判、民集九巻三号三三六頁、最高三小昭四七・一・二五判、民集二六巻一号一頁各参照)、もとよりその土地、家屋の真の所有者が誰であるかは問うところではないから、本件各課税処分にはなんら違法なところはないというべきである。

たしかに、さきに認定したように、訴外堺市長は、原告に対し、昭和五一年五月、同年一月一日本件土地(二)の土地登記簿に所有者として登記されている訴外大阪府が昭和五〇年一月一〇日所有者でなくなり、原告が昭和五一年一月一日において本件土地(二)を現に所有しているとして、地方税法第三四三条第二項後段、第七〇二条第二項に基づき、本件土地(二)の昭和五一年度の固定資産税及び都市計画税をそれぞれ課しており、原告はこれをとらえて被告のした本件各課税処分が実質上二重課税に当たると主張する。

しかし、そもそも固定資産税及び都市計画税は、その課税客体を固定資産(同法第三四二条第一項)又は土地及び家屋(同法第七〇二条第一項)とする物税であり、前記交換契約によつて本件土地(一)及び本件土地(二)がそれぞれ譲渡されたことは、たまたま時を同じくして二個の譲渡契約がされた場合に比すべきものと考えられるのであるから、本件土地(一)については昭和五一年一月一日土地登記簿に原告が所有者として記載されているため、本件土地(二)については訴外大阪府が昭和五一年一月一日以前に所有者でなくなり、同日において原告が本件土地(二)を現に所有していることが認められるため、原告が昭和五一年度の本件土地(一)及び本件土地(二)の各固定資産税及び都市計画税を課されたとしてもあえて異とするに足りないといわなければならない。

なるほど、原告は、前記交換契約をする前は本件土地(一)を、前記交換契約をした後は本件土地(二)をそれぞれ所有するのであるから、経済的、実質的には本件土地(一)及び本件土地(二)を同時に所有していたことはないにもかかわらず、いわば固定資産税及び都市計画税を二重払いさせられ、しかも訴外大阪府に対し不当利得として本件土地(一)に対する固定資産税及び都市計画税の税額に相当する金員の返還を請求することもできないことは一見不合理なようである。

しかし、地方税法第三四三条第二項前後、第七〇二条第二項は前記のような課税上の技術的考慮から、また、同法条項後段は所有者として登記又は登録されている者が右賦課期日において存在しなくなつたため若しくは同法第三四八条第一項の者が賦課期日前に所有者でなくなつているが所有権移転登記がされないため固定資産税及び都市計画税を課することができず、通常の場合との均衡を失することを是正するため定められたものであつて、それなりに合理性をもつものであるから、原告としては、よろしく地方税法の定めるところを把握したうえ、前記交換契約を締結した年度内に本件土地(一)について所有権移転登記をし、若しくは、交換契約において本件土地(一)、(二)の各所有権移転の時期を所有権移転登記の時点とする旨約定し、又は、交換契約において訴外大阪府が昭和五一年度の本件土地(一)の固定資産税及び都市計画税の税額に相当する金員を負担する旨定める等私法上の合意をしてその負担の実質的な転嫁を図り、もつてさきのような事態を回避することができたのである。

しかるに、原告が、右のような措置をなんら講じなかつたため、昭和五一年度の本件土地(一)及び本件土地(二)の各固定資産税及び都市計画税の納税義務者となつたことはやむをえないところといわなければならない(原告の主張するところは、立法論としてはともかく、地方税法の解釈としては採用することができない。)。

そうすると、本件各課税処分に違法なところがあるということは到底できない。

三原告は、被告のした異議申立棄却決定の取消を求めるが、その理由としては本件各課税処分が違法であること(これが右決定の取消原因とならないことは、前記判示を俟つまでもなく、行政事件訴訟法第一〇条第二項の定めるところから明らかである。)を主張するほか、右決定固有の瑕疵をなんら指摘しない。

そうすると、原告の本訴請求のうち右決定の取消を求める部分も理由がないといわざるをえないこととなる。

四よつて、原告の本件各請求は、理由がないからいずれもこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(石川恭 増井和男 西尾進)

物件目録〈省略〉

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